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東京高等裁判所 昭和30年(行ナ)14号 判決

原告 高根藤雄

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和二十七年抗告審判第一、二二八号事件について、特許庁が昭和三十年一月十二日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は昭和二十六年十一月九日その考案にかゝる実用新案「壜帽」について登録を出願したところ(昭和二十六年実用新案願第一九八六二号事件)、昭和二十七年十月二十八日拒絶査定を受けたので、同年十一月二十八日右査定に対し抗告審判を請求したが(昭和二十七年抗告審判第一、二二八号事件)、特許庁は昭和三十年一月十二日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同月二十九日原告に送達された。

原告が右出願において実用新案の要旨としたところは、「地紙状に成型した箔鈑を、帽状に貼合せて帽体を作り、その上部の口辺に凹窪を周設してなる壜帽の構造」であるが、審決は登録実用新案第五〇二六三号壜蓋(以下第一引用例という。)、昭和十四年実用新案出願公告第一七八八一号壜帽(以下第二引用例という。)及び昭和十年実用新案出願公告第一七三七五号壜蓋用金属箔「キヤプセル」(以下第三引用例という。)の各公報を引用して、原告の実用新案は、これら引用例と類似であるから、実用新案法第三条第二号により、同法第一条の登録要件を具備していないとしている。

二、しかしながら右審決は、次の理由によつて違法であつて、これを取り消すべきものである。

(一)  第一引用例は、「セルロイド薄鈑を頭蓋のある帽形に搾出し、上部に狭搾部を形成し、かつ、周側面の全面に凹凸状を施し、内側上端にコルク薄片を貼付してなる壜蓋の構造」である。

これと原告の考案とを比較して、審決は、両者は共に周面に凹条を設けた壜帽の点で一致するとなし、両者の凹条のみを表面的にみて彼此を混同しているようである。しかしながらこれは原告の考案の場合における凹条は、上部口辺に限られ、しかも凹条の突端は、口辺の内方に向つて突出していることから、下部帽体の内面とはその本体において断面の如き段部構造(以下段部という。)を有していることを看却したもので、明らかに審理不尽の違法がある。いまこれを詳説すれば、右引用例に示すものは、その胴部全面に亘つて凹条を設けるから、その本体における断面は、凹条部をとると、の如き頭蓋のある単純構造をなし、凹条によつて本体に段部を形成したことにはならない。原告の考案は、頭蓋を有しない帽体でありながら、上部周縁に凹窪を付することによつて、内面に段部を形成し得られ、この段を用いて、壜栓、王冠等の側面に係止するところの独特の構造による顕著な作用をなし、その結果頭蓋部の資材を節減しながら、頭蓋を有する壜帽と同一の作用を達成し、しかも壜栓頂面の意匠又は商標を遮蔽しない有用な効果を奏している。これに対し、第一引用例は頭蓋を有し、頭蓋を壜栓に係止せしめることは、一般の冠蓋と何等択ぶところがなく、それに、この壜蓋の凹凸条は、壜蓋の狭搾部が壜の膨出部との嵌合、或いは離脱を容易にするための弾性を付与したのに止まるものであつて、原告の考案における段を附設するための凹窪(弾性も可撓性もなく、永久歪をとる。)とは、その本質を全く異にし、構造、目的、作用、効果の一つだに牽連していない。

(二)  原告の考案と第二及び第三引用例との差異を考察するに、

(イ) 第二引用例は、側張部で胴部を形成し、かつ、これに天張部を結合したものであるから、畢竟頭蓋を有する壜帽であることは、何人も疑のないところであつて、前述の構造を要旨とする原告の考案とは、いささかも関連していないことは自明のところである。

(ロ) 第三引用例は、曽て原告が出願したキヤツプシールであつて、その内容を最も熟知しているのも原告自身である。審決は、この引用例を説明して「箔鈑で頭蓋のない帽状の壜帽を構成したもの」と断定し、これによつて原告の考案を「周知なり」としたのであるが、それは甚だしい独断である。すなわちこれが説明書及び図面中には、「頭蓋のない」旨の記載は全然存在せず、殊に図面中第四図は、第一図の壜栓に対して壜帽を被着せしめた状態を示すが、壜栓を特に点線で表示したことからみても、この壜帽には頭蓋を有することが明瞭である。原告は三十数年に亘つて斯業に携わる者であるが、右引用例の出願当時である昭和十年頃に、頭蓋を有しない壜帽のあつたことを知らない。従つてこれを頭蓋のない壜帽なりとして引用した審決は明らかに違法である。

(三)  しかのみならず審決及び当審における被告代理人の主張は、原告出願の考案における物品の性質及び用途を全く理解せず、かつ添付図面を仔細に検討すれば、容易に想到することができる本考案の段を附設するための重要な凹窪の特徴を看過し、しかも第一引用例の凹凸条面との構造その他性質作用及び効果の差異を全く無視した違法があるものである。

すなわち本件出願における壜帽は、使用後直ちに廃棄するもので、これと反覆使用する壜栓とは、その特質を全然異にするものであり、また壜帽の掛止と壜蓋又は封緘栓の掛止とは、いずれも掛止するものとはいえ、(イ)本件考案の掛止は、頭蓋のない壜帽の掛止であり、第一引用例は頭蓋を有する壜蓋である。それに、(ロ)本件考案の壜帽はいわゆるキヤプシールとして壜蓋、壜栓、王冠等に被覆して締付機で締め付けるのに、引用例の壜蓋はただ壜口にかぶせるに過ぎないし、(ハ)掛止をする本件考案の段部は、頭蓋の用をなし、王冠、壜栓等の周辺に掛止し、しかも王冠、壜栓等の口径に適合しないものは、やゝ伸張して掛止する作用をなすものである。ところが第一引用例は、頭蓋が主たる掛止の役目をなすものである。また(ニ)本件考案は、前記した締付操作により原形を失つて圧着するのに、第一引用例は締め付けられて原形を失うものではない。これら諸点からいつて、両者の作用効果も、決して被告代理人が主張するように均等のものではない

元来本件出願の壜帽とは、主としてアルミニユーム、鉛又は錫を延圧した金属箔からなるものであつて、これを倒桶状に成型したものであり、壜口に嵌着した王冠、壜蓋又は壜栓等にかぶせ、これを外部から締め付け、壜の口辺一体に被着させるものであつて、壜をあけるには、王冠、壜蓋又は壜栓を取り外す前に先ずこの被覆を破棄しなければならず、その使用は一回に限る。別にキヤプシール、キヤツプシール又はキヤツプシユールともいうものである。そして、本件出願にかゝる物品が王冠はもとより、壜蓋でないことは、登録願に添付した説明書における「王冠又は壜蓋の図柄を現出させる意匠的効果もあるけれども」(第二頁第三行目)、「帽体を王冠又は壜蓋に掛止させ安定させることができるから」(第二頁第十一行目)、及び「王冠又は壜蓋の意匠を遮蔽する虞もなく」(同頁第十三行目)の各傍線を付した文字の文意、また出願にかゝる物品が、アルミニユーム、錫又は鉛等を延圧した薄い金属箔であり、締付器によつて壜口に締め付けることは、同説明書における「第四図は箔鈑の平面図である(第一頁第四、五行目)、「地紙状に成型した箔鈑(B)を帽状に貼合せて帽体(A)を作り」(第一頁第七行目)、「箔鈑を円形に打抜き、これを押圧して成型するか」(第一頁第十、第十一行目)、「箔鈑打抜きの際」(第二頁第一行目)、「箔鈑を地紙状に成型するので」(第二頁第六行目)、「両端辺を貼合せるに過ぎないので」(第二頁第七行目)、「冠着の際にすべり落ちて、締付が困難であり」(第二頁第九行目)「締付は簡単に、手ぎわよく、然も強固に行うことができる等」(第二頁第十三、十四行目)、「地紙状に成型した箔鈑(B)を、帽状に貼合せて」(第三頁第二行目)等の各傍線を付した文字によつて明瞭である。

(四)  これを要するに、審決の理由とした三つの引用例は、これを個々にみても、総合して判断しても、原告の出願にかゝる実用新案とは、悉く明白な相違があり、相互に類推想到し得られるような関連性もなく、しかも構造、作用及び効果において、相当の懸隔を有するものであるから、到底類似関係を生じないものである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対して次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一の事実は、これを認める。

二、同二の主張は、これを否認する。

(一)  原告は、「原告の実用新案における凹窪は、頭蓋のない帽体の上部口辺に設けて段部を構成し、弾性も可撓性もない永久歪のこの段部で壜栓や王冠に掛止するのに対し、第一引用例の凹条は、頭蓋のある帽形体の胴部全長にあるので段部を形成することなく、その弾性により壜口に掛止する点で相違する。」と主張しているが、原告提出の登録願添付の説明書の記載では、「凹窪を設けたことによつて、帽体を王冠や壜栓に掛止させて安定させる」とあり、その添付図面にも段部を明示する記載がなく、またこの凹窪により形成された段部は直線不連続的なものであるか、曲線連続的なものであるかも明らかでないので「弾性も可撓性もない永久歪のこの段部で壜栓や王冠に掛止させる」とは、右説明書及び図面からは到底確認できない。結局右説明書の記載よりみて、原告の考案にかゝる壜帽は、凹窪の内面により壜栓や王冠の側面に掛止するものであり、この点において第一引用例の凹条とその作用、効果において均等とみるの外はない。しかして頭蓋のない筒状の金属製封緘栓の胴体の一部周側に凹条を設け、その凹条の内面で封緘栓を壜口の側面に圧着掛止するものは、従来極めて普通に知られている事実に鑑み、原告の考案の凹窪を帽体の上部口辺にのみ設けた点は、凹条を胴体の全長に亘つて設けられた第一引用例より当業者が必要に応じて容易に実施できるものである。

(二)  審決が第二引用例を引用したのは、原告の考案の、地紙状に成形した薄鈑を貼り合わせて帽体を形成した点が、原告の出願前普通に知られていることを例証したもので、右引用例について、原告が右は頭蓋を有する点で、原告の考案のものと相違すると主張しているのは当らない。

(三)  また審決が第三引用例を引用したのは、頭蓋のない帽状の壜帽が原告の出願前普通に知られた事実を例証するためであつて、これに対し原告は第三引用例は頭蓋を有すると主張しているが、右引用例の図面より判断してこれを否定する。しかし仮りに第三引用例が、原告の主張のとおりであるとしても、頭蓋のない帽状の封緘栓は、原告の出願以前極めて普通に知られていたものである。

(四)  更に原告は、「本件出願における壜帽は使用後直ちに廃棄するもので、これと反覆使用する壜栓とは、その特質を全然異にする」と主張しているが、そもそも壜帽とは、壜口を被覆密閉する帽状体で、特許庁編の発明及び実用新案の分類表によれば、百三十三類A三十五即ちびん、罐、たるの共通事項中の帽被に分類されている。(旧分類では百二十六類びん、罐、たるの十一、壜帽に分類されていた。)壜帽の使用目的は、(イ)封緘、(ロ)蓋(内容物の漏洩防止、壜口の清潔保持のため)、(ハ)壜口の破損防止で、このうち(イ)に属する壜帽は、反覆使用不可能であるが、(ロ)及び(ハ)に属する壜帽は、反覆使用可能である。また、たとい(イ)に属する壜帽でも、(ロ)に兼用されるものは、反覆使用可能である。このことは大正から昭和を通じての特許庁の壜帽に対する取扱例であり、また社会通念の是認するところである。原告の本件考案は、壜口を被覆密閉する封緘として用いられる帽状体であるから、前記(イ)に属する壜帽であり、第一引用例に示すものは、壜口を被覆密閉する蓋として用いられる帽状体であるから、(ロ)に属する壜帽で、ともに壜帽である点において物品同一であるから、この点についての原告の主張も理由がない。

(五)  これを要するに、原告の出願にかゝる実用新案と第一引用例とを比較すると、両者は胴側に凹条を設け、その内面で壜口に掛止するようにした壜帽の点で一致し、両者の相違点である、凹条を頭蓋のない帽体の一部の口部周辺にのみに設けた点は、頭蓋のない帽体の一部に凹条を設けた封緘栓が普通に知られている事実に鑑み、第一引用例より容易に実施できるところであり、また地紙状に成形した箔鈑を貼り合せて帽体を構成した点は、第二引用例に示すように、かつ帽体に頭蓋を設けない点は、従来極めて普通に知られている事柄なので、結局その相違には考案が認められないから、原告の出願にかゝる実用新案は、第一引用例と類似であつて、実用新案法第三条第二号の規定により、同法第一条の登録要件を具備しないものであるから、審決には原告主張のような違法の点はない。

第四証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因一の事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実と、その成立に争のない甲第一号証によれば、原告の本件実用新案登録願添付の説明書には、「登録請求の範囲」の項に、「地紙状に成型した箔鈑を、帽状に貼り合わせて帽体を作り、その上部の口辺に、凹窪を周設してなる壜帽の構造」と記載し、その「性質、作用及び効果の要領」の項には、右「登録請求の範囲」の項に記載した事項を繰り返した上、これに次ぎ、「在来この種の壜帽を見るに、多くは箔鈑を円形に打ち抜き、これを押圧して成型するか、稀には頭蓋の中央部を刳抜いて、その側周に縁を残存させるのを一般とする。ところが、前者は、箔鈑打抜の際端切れが多く、頭蓋もあるので資材に無駄を生じ、労費もかさむ有様であり、後者は、前者に比し資材を節約する外、王冠又は壜蓋の図柄を現出させる意匠的効果もあるけれども、なお製出には手数を要し、しかも胴側に意匠を現わすことは、前者同様に困難であつた。しかるに本考案によると、頭蓋は全く不要であり、箔鈑を地紙状に成型するので、端切れを生ずることがすくなく、単に両端辺を貼り合せるに過ぎないので、資材と製作の為の労力とを大いに節約するはもちろん、胴側に意匠を施することが頗る容易である。又帽状のまゝだと、冠着の際すべり落ちて締付が困難であり、動き易いので仕上げも亦良好にゆき難い憾みがあるけれども、特に凹窪を設けたことによつて、帽体を王冠又は壜蓋に掛止させて安定させることができるから、上記のように、頭蓋や頭蓋を刳り抜いて縁を設ける要がなく、それに王冠又は壜蓋の意匠を遮蔽する虞もなく、締付は簡単に手ぎわよく、しかも強固に行うことができる等、多量生産の目的によく合致した優秀な諸効果を発揮するものである。」旨が記載されていることを認めることができる。

以上説明書の記載と、これに添付した図面(甲第一号証)とを綜合すれば、原告の出願にかゝる実用新案は、(イ)箔鈑で作られた、普通キヤプシールと呼ばれ壜口の封緘に用いられる頭蓋のない壜帽において、(ロ)地紙状に成型した箔鈑を帽状に貼り合わせて帽体を作り、(ハ)その上部の口辺に、凹窪を周設してなる構造を要旨とするものであると認定される。

三、一方その成立に争のない乙第一、四、五号証によれば、審決が引用したいわゆる第一、二、三引用例について、それぞれ次の事実が認められる。

(一)  第一引用例は、大正八年十月二十七日に登録された登録実用新案第五〇二六三号の公報であつて、これには、セルロイド薄板を搾出した頭蓋のある帽形の壜蓋で、その周囲の全面に亘つて縦の凹凸条を設けた面を構成し、内側上端にコルク薄片を貼付し、前記凹凸条面で壜口の一部を弾性的に圧して、壜蓋をその位置に保持させたものを記載している。

(二)  第二引用例は、昭和十四年十一月十三日に公告された昭和十四年実用新案出願公告第一七八八一号の公報であつて、これには、従来錫等の軟性金属薄鈑で構成された壜帽をその効果を減じないで、他の材料で経済的に製作することを主眼とし、アート紙又はその他類似の紙の上面に適当な糊着剤を以て、セロフアン紙を貼着重合したものを、前記軟金属鈑の代用品として作成した壜帽で、その構造は、先ず右材料を円形に截成した天張部を以て壜蓋を被い、その周縁を皺畳下向し、その下方壜頸の周囲には、右材料を地紙形に截成した側張部の両端を貼り合わせて作成することが記載されている。

(三)  第三引用例は、昭和十年十一月十五日に公告された昭和十年実用新案出願公告第一七三七五号の公報で、これには壜の王冠上に被せるキヤプシールの側面に、王冠締付用操作杆の突出部を通過させるに都合のよいように特殊の細孔その他の工作を施したものを記載しているが、同図面によれば頭蓋のないキヤプシールの存在したものであることを認めることができる。原告は右引用例は、原告自身の出願にかゝるもので、右実用新案におけるキヤプシールは頭蓋を有し、右出願当時には頭蓋のないキヤプシールは存在しなかつたと主張するが、頭蓋の有無は、右説明書に何等記載されていないばかりでなく、右公報を一つの刊行物として見るとき、その図面によれば、出願者である原告自身の意図はともかくとして、頭蓋のない、壜頸の周囲だけを封緘するキヤプシールの存在することが、少くとも本件の出願当時においては、公知であつたと認定することができる。

四、よつて本件実用新案の要旨とする壜帽と、前記第一引用例に記載されたものとを比較すると、両者はいずれも壜帽の壜頸を被う部分の周囲に設けた縦の凹窪すなわち襞によつて、装着される壜口に弾性的に圧着して、その位置を保持するものである点において一致し前者が、(イ)箔鈑で作られた普通キヤツプシールと呼ばれて壜頸の封緘に用いられる頭蓋のない壜帽であつて、(ロ)地紙状に成型した箔鈑を帽状に貼り合わせて帽体を作り、かつ(ハ)前述の凹窪がその上部口辺の周囲のみに設けられているのに対し、後者は、(イ)、(ロ)セルロイド薄板を搾出して作られた頭蓋のある壜帽で、かつ(ハ)凹凸条が周囲全面に亘つて設けられている点で差異がある。しかしながらその成立に争のない乙第一号証から第二十号証までを総合すれば、壜帽とは、広く壜口を被覆密閉する帽状体を指称し、そのうちには、頭蓋のない壜頸の周囲だけを封緘するキヤプシール、内容物の漏出を防ぎ壜口の清潔を保持するための壜蓋、及び壜口の破損防止のための壜口保全器の三者が存在することが認められ、原告の本件登録出願当時、箔鈑で作られた普通キヤツプシールと呼ばれて壜頸の封緘に用いられる頭蓋のない壜帽が公知となつていたこと及び頭蓋のない壜帽を地紙状の材料の両端を貼り合わせて作つたものが公知となつていたことは、先に認定した第二、三引用例によつて認めることができる。そして壜帽の側周に凹凸窪条を設けるにあたり、これを引用例でみたように周囲全面に亘つて設けるか、または上部口辺の周囲のみに止めるかは、これを新たな考案というより、むしろ本件説明書にも記載されたように「胴側に意匠を施すること」等当事者が、その必要に応じて容易に実施し得る設計の変更に過ぎないものと認めるのが相当である。原告はこの点について、原告の考案における上部口辺の凹条の突端は、口辺の内方に向つて突出しているから、下方帽体とは本体において段部構造をなし、この段部によつて、壜栓、王冠等の側面に係止する独特の構造であると主張するが、原告が登録願に添付した説明書及び図面によつては、右の凹窪が、かゝる効果を生ずるほど顕著に、いわゆる段部を形成しているものとは認められず、また凹窪の最下端が平担面に形成する起伏部の有する作用効果は、右説明書及び図面の記載によれば、前に認定したように、これによつて装着される壜頸に弾性的に圧着して、その位置を保持する以上には出でないものと解せられる。

してみれば、原告の出願にかゝる本件実用新案は、前記公知事実の存在のもとにおいて、ひとしく当時公知に属した第一引用例から、当業者が容易になし得るもの、ないしは、以上各公知のものを単に寄せ合せたに過ぎないもので、実用新案法にいわゆる考案に属しないものと判定するの外ない。

以上の理由により審決には原告主張のような違法はなく、原告の本訴請求はその理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 原増司 高井常太郎 脇田忠)

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